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どうで死ぬ身の一踊り/西村賢太
数年前の芥川賞候補にもなったとのことで、最初読み始めた時にはこの人に賞を取らせるべきだったのではないかと強く思ったが、後半、女との話が中心になると、いかに最低の男かがこれでもかというほど露悪的に描かれるので、こんな人に芥川賞をやってはいけないと思うようになった。もっとも芥川賞自体がもう相当に馬鹿げているので、この賞自体を廃止したほうがいいとは思うのだが(関係ないがノーベル賞も廃止したほうがいいと思う)。

最低の男とはいっても、描かれる男の幼児性や自己中心性は程度の差はあれどの男にもある程度は当てはまるので、それだけに読んでいてとても不愉快になる。たいへんに笑える小説なのだが(ほんとうに面白い)読み終わって「ああ面白かった」ではなくて、なんともいえない不愉快さが残るのは私が女だからだろうが、男性が読んでも身につまされて辛くなる人は多いと思う。一方で、ほんとうに最低だなあこれよりはマシだなあと、下を見て笑えるくらいの名人芸ではあるし、これだけ最低さを露悪的に活写できるのは才能だよなあと思う。

あとがきに著者がこう書いている。「わずかにこれらの作中には、作者の頭の中だけで、観念だけで暴力を語ったり、登場人物を都合良く動かしたりしてる部分が微塵もないところに、当今のバカな読者やバカな評者、編輯者なぞがよろこびそうな小説よりも、いくらかマシな面がなかろうかとの思いもなくはないが、これは他の鑑賞眼の全てに、良しとしてうつるものでもあるまい。(もっとも私個人は、こと小説に関しては、ただ才にまかせただけの観念の産物よりも、その作者自身の血と涙とでもっと描いてくれたものでなければ、まるで読む気もしないし書く気も起こらぬが)」

私はもともと小説があまり好きではなくて、ほんとうに小説を読まないのだけど、その理由はまさにこれであって(だから村上春樹なんておぞけがふるうくらいに嫌いなのだけど)、あとがきのこの部分はそんな気分をうまく言い表してる。書かれていることがどれだけ事実であるかではなくて、書いている人とどれだけ深い部分で繋がっているかが問題なのだろう。そういうものが、とにかく少なすぎるし、昨今特にあまり必要とされていないようにも思える。これほどの笑える名人芸と抱き合わせでなければ無理なんだろう。

多分、業田良家とは比較されるだろうが、私は西村賢太のほうが好きだ。最終的に母性とか何だか大きなものに委ねていく話は気持ちが悪いし、それよりは最後まで投げやりだったり破滅的だったりするほうがいい。本人にとっては幸せなことではないだろうけど。

この人の本をアマゾンで検索すると、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」のところに小谷野敦『悲望』が出てきて、うーんそうかと納得した。ていうか、小谷野さん本人がこの本のレビューしてるし。

そういえば、業田良家が大学中退だと知った呉智英が残念そうに「なーんだ、きみ大学行ってたのー。いいから高卒だということにしなさい。そのほうが(作風からして)箔が付くから」と無茶苦茶なアドバイスをしたといういい話があるけど、西村賢太が中卒というのはそれを地でいっていて、呉智英は鋭いなあと妙に感心した。

明日、業田良家の講演(司会が呉智英)があるので楽しみ。

本・雑誌 | 19:41:45 | Trackback(0) | (-)
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